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Connectivity Map を利用した解析例

 Connectivity Mapは、Dr. Todd R. Golubらによって開発され、米国BROAD InstituteのWebページ上で提供されている遺伝子発現データベース及び解析用ソフトウエアです1)。最新版(build 02)では、1,309種類の低分子化合物について行われた約7,000個の遺伝子発現解析実験のデータが公開されています。
 Connectivity Mapを利用した解析により、任意の遺伝子発現パターン(signature)に類似する遺伝子発現の変化をヒトがん細胞に誘導する化合物をデータベースより探索できます。

【解析例】

小胞体ストレス応答(Unfolded Protein Response; UPR)を誘導する化合物


 グルコース代謝阻害剤である2-Deoxyglucose (2DG) は、UPRのシグナル経路を活性化させ、UPRのマーカー分子であるGlucose-regulated protein 78 (GRP78) の発現を誘導します。また、グルコース飢餓のような生理的条件下でも、細胞にUPRの活性化が誘導されることが知られています。
我々は、グルコース無添加もしくは2DGを18時間処理したヒトがん細胞株の遺伝子発現をマイクロアレイにより解析し、有意に発現の変化する共通の遺伝子群をグルコース飢餓signatureとして同定しました2)。これらをConnectivity Mapにより解析した結果、データベース内の化合物から、小胞体膜上のCa2+-ATPase阻害剤であるThapsigargin及びCa2+イオノフォアIonomycinが、高いスコアで検出されました。これらの化合物は、グルコース飢餓ストレスと同様に、細胞にUPRを誘導するchemical stressorであることが知られています。この結果は、遺伝子発現データの比較解析によって、細胞に同じような作用を示す化合物を探索することが可能であることを示唆しています。

cmap_example

図. "barview"(左)は、処理した化合物・濃度の異なる6,100個の実験データを図示したもので、
 グルコース飢餓ストレスsignatureとの相関が高い順に、上から一列に並べた。
 有意に正に相関する化合物のデータを緑色、負に相関するものを赤色で示している。
 2DG、Thapsigargin、Ionomycinのそれぞれのbarに示されているラインは、
 表(右)に示したデータ(instance)の位置を表している。



参考文献

  1. Lamb, J. et al. : Science 313 : 1929-1935 (2006)
  2. Saito, S. et al. : Cancer Research 69 : 4225-4234 (2009)
  3. 齋藤さかえ, 冨田章弘. : 最新医学 64 : 2132-2140 (2009)